第10回「CHAPERT9:中央政府と地方政府」

 

■事前準備

  • テキストの該当ページを読んでおいてください
  • 宿題(p.155のエクササイズ2)の確認

■レジュメ

1.比較の枠組み

〇主権のあり方:単一主権制と連邦制
・単一主権制
→主権と憲法を持つ中央政府が、下位レベルの政府の改廃存置を決定できる政府システム
=地方政府は中央政府の議会が制定した法令に存在根拠や権能の根拠がある
=地方政府は、あくまで中央政府によって認められた自律性の範囲内で政策決定や実施が可能

・連邦制
→もともと主権と憲法を有する州や邦といった地域単位がその主権の一部を移譲して連邦政府を設立する政府システム
→外交、安全保障、国境管理などの権能を限定的に連邦政府に委ね、残りの大多数の権能を邦や州が留保している

〇権能付与のあり方:制限列挙方式と概括例示方式
・制限列挙方式
→地方政府は中央の法令で授権された事務権能しか実施してはいけないという権限配分方式
→地方政府の判断が正しくても、中央政府の意向に反すると違法になることも(p.160の大ロンドンの例)

・概括例示方式
→地方政府の事務権能が個別に法令で列挙されているわけではなく、例示的あるいは概括的にしか示されていない権能配分方式
→二重行政が起こりうる根拠
→上乗せ・横出し規制の実施根拠

〇集権ー分権軸と融合―分離軸(天川1986のモデル)、集中ー分散軸と統合―分立軸
・集権ー分権軸
集権:地方に関する意思決定を中央政府が行い、地方や住民の意思は制限
分権:中央政府の意思をできるだけ排除し、地方や住民の意思決定を優先

・融合ー分離軸
融合:中央政府の所管事務を地方政府の区域内で地方政府が中央政府とともに実施
分離:中央政府の所管事務である限り、地方政府は関与しない

・実際に当てはめてみると
イギリス→集権・分離
アメリカ→分権・分離
日本(~1990年代)→集権・融合
日本(2000年~)→分権・融合

・ほかにも西尾モデル(1990)
→集中―分散、統合ー分立軸をとることにより、政策実施を担う機関がどの範囲の所管を扱い、どの程度多元的であるかを示す

2.中央地方関係の一般的な理論

〇市場保全型連邦主義
・中央政府の関与を極力制限し、地方にできるだけ大きな財政的規律を与える重要性を強調(分離型中央地方関係を想定)
→中央政府がベイルアウトを行わないようにすると、下位政府の財政の健全性は保たれる
→よって、中央政府による財政調整制度に批判的

〇ハミルトニアン・モデル
・地方財政を完全にコントロール下に置くことを主張
→地方政府の起債の自律性が高いと、財政規律を破る誘因が働く
→むしろ、中央による地方の統制があったほうがよい
ex.イギリス

〇「足による投票」モデルと「シティ・リミッツ」論
・「足による投票モデル」(チボー1956)
→地方政府間の競争を通じて効率的な公共サービスが供給されるというモデル
→「住民や企業は公共サービスの質や財政負担を勘案して移動する」という仮説
→しかし、最終的にどのような事態が起きるのかが不明瞭

・シティ・リミッツ論(ピーターソン1981)
→地方政府間のサービス競争が激化すると、地方政府の政策選択が構造的に制約される
→開発には積極的になるが、再分配に消極的になるのでは
→「福祉の磁石」の発生により、福祉の充実が財政危機に陥る可能性
→結果的に、福祉水準の切り下げ競争(「底辺への競争」)が発生するのでは?

・日本とアメリカの実際
→いずれも地方では開発政策へ支出する傾向が強く、中央は再分配への支出傾向が強い
→日本の地方政府はアメリカよりも再分配を実施してきた(地方交付税など、財政調整制度が発達しているから)
→三位一体改革以降、地方の財政的自立性が強化されたことによって、構造的制約に直面する
ex.介護保険、後期高齢者医療制度の広域化
→市町村を保険者として発足したが、都道府県を単位とした広域連合を形成している現実
→基礎自治体だけで福祉行政を完結させる試みにそもそも無理があるのでは(北山2011)

〇鼎立不能な3つの制度理念
・市場保全型連邦主義は財政規律と自律性、ハミルトニアン・モデルは財政規律と地域間の格差是正を制度理念として持つ
→「ベイルアウト期待行動」をいかに小さくするのかが共通した問題意識
・自律性と格差是正が同時に追求されたならば
→短期的にはユートピアだが、長期的には共有地の悲劇や財政規律の緩みにつながる
→結果的に、「ベイルアウト期待行動」を排除できない

3.日本における中央地方関係

〇垂直的行政統制モデル
・中央省庁による地方自治体の統制を指摘するモデル
→地方自治体は中央政府の忠実な代理人であるというモデル(プリンシパル・エージェント理論)。イギリスなど
→日本では、戦前からの特権的な官僚が戦後の民主化改革の中で温存強化され、政策決定において政治家より優位にあるという「官僚優位論」と密接な関係にある

・現代的な解釈
1)政策実施過程における地方政府の従属的地位
→特に機関委任事務の場合は、地方の裁量がほとんどなかった
→法定受託事務に制度再編されても、国の関与は残り、地方自治体の事務執行費用の負担の問題は残る

2)地方税財政に関する中央政府による地方政府の統制
→地方政府に課税自主権はない
→国庫補助負担金は中央省庁が定めた使途にしか使えない
→地方債の発行に総務大臣の同意が必要(事前協議制)

3)出向人事を通じて中央省庁による地方統制
→キャリア組が地方の特別職や幹部ポストに就いて中央で策定した政策を自治体で徹底していく
→特に総務省キャリアは生涯で複数回出向する(第3章参照)

まとめ:中央省庁の官僚イニシアティブを強調し、現状の制度を強く批判する規範的な特徴がある

〇水平的政治競争モデル
・地方自治体が地元選出の国会議員を通じて中央政府内部の政策決定に影響を及ぼしながら、他の自治体と競争しているというモデル
・旧機関委任事務の意義の指摘
→ナショナル・ミニマムの効率的な達成としての役割
・地方自治体の最終消費額の厚さ(100兆円)
→中央がこれらをコントロールできるという前提が非現実的
・垂直的行政統制モデルへの批判を行いつつ、「選挙」の重要性を取り入れたモデル
→特に衆院選の旧中選挙区制(1994年に廃止)下では、国会議員たちは地方の利益に敏感になり、地方への利益誘導が行われていた

〇新産業都市建設促進法と老人医療の無料化をめぐる政治過程
・新産業都市建設促進法(1960年代)
→池田勇人内閣は太平洋ベルトに予算の集中投資を構想
→しかし、現実は分散投資へ(1962年全総、1964年工業地域整備法)
→地方自治体の政治的圧力が国の戦略を歪めた

・老人医療費無料化
→左派系の首長を戴く革新自治体の躍進(1960~70年代)
→沢内村(1960年)を発端に、東京都(1969年)など全国に医療費無料化が拡大
→1973年に国の制度として法制化(1983年に終了)

〇行政的回路における地方利益の表出機能
・政治的回路だけではなく、行政的回路にも地方利益の表出メカニズムがある(北村2006)
→総務省(旧自治省)は最も地方自治体の利益のために行動している
→他方で財務省は最も冷淡

◆参考文献
・天川晃(1986)「変革の構想―道州制論の文脈」大森彌・佐藤誠三郎編『日本の地方政府』東京大学出版会、pp.111-137

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